2017年07月08日

オレンジ

 シュッシュッと規則正しく鳴っていた音が止む。どうやら採点が終わったらしい。ノートを覗き見るとオレンジ色のマルが7つとバツが1つ。不満そうな顔で解答を睨む先輩が投げ出した三色ボールペンにセットされているのは、オレンジ・黄緑・ブルーブラックの3色だ。
「三井先輩、オレンジで丸つけするんですね」
「ん? 緑よりはオレンジだろ、フツー」
 別に緑でもいいんだけどさと言って、先輩はオレンジと黄緑のペンをカチャカチャと交互に出して遊んでいる。
「そもそも赤・青・黒じゃダメなんですか?」
「んー、でもオレンジと緑の方が夏っぽくてよくない?」
「もう秋ですよ」
「俺、夏生まれなの。8月7日」
 好きな人の誕生日を知ったのに、手帳にハートのシールを貼ってみようだとか恋占いをしてみようだとかそんな浮かれた気分にはなれなかった。今更知ったところでどうしようもない。だって8月はもう終わってしまったし、来年の8月に先輩はもうここにはいない。
 いつだって私は先輩に追いつけないのだ。
 塾の体験授業の帰り道、生まれて初めて一目ぼれをしたのが4月。学年と名前、それから部活を知ったのが5月。テニス部だと知った日の次の日には地区大会で負けて引退してしまっていた。初めて喋ったのは6月の雨の日だった。7月になってやっと、塾で何の授業を取っているのかが分かって火・木・土曜に来ていることを知ったけれど、すぐに夏期講習になって取っている授業が変わってしまった。8月には先輩の成績がいいことと指定校推薦を狙っていることを知ったけれど、私の1学期の成績じゃその後を追いかけるのはどう頑張っても無理そうだ。そして8月生まれの先輩の誕生日を知ったのが9月。ここまでくるともう笑えてくる。先週、先輩がこの空き教室で自習していることを知った時はやっと光が見えたと思ったのに。
「なんか似合わないですね」
「割と気に入ってるんだけどな」
 追いつけない悔しさから口に出しただけなのに、先輩は少し本気でがっかりしているように見えた。
「来年はサークルとかで日焼けして立派な夏男になるぞー、おー」
 適当なことを言っているけれど、先輩の視線は問題集の上に落ちていた。先輩はくるりと黄緑で問題の番号に印を付けて、ボールペンの後ろで頭をかいている。問題集は私が使っているのと色違いだから数学の問題を解いていることは分かるのだけど、先輩のノートは数字よりアルファベットの方が多いくらいでとても数学を解いているとは思えなかった。サイン、コサインはこの前やったけど、それでも何をどうしたらそんな式を扱うところまで辿りつけるのかは分からない。
「良かった、ミッチーやっぱここにいたー」
 静かな教室の扉をガラガラと開けて知らない女の先輩が入ってきた。
「ごめん、勉強デート中だった?」
 私の方を見て彼女はそう言ったけれど、一応、って感じがひしひしと伝わってきた。そりゃあそうだろう。一つ机を挟んで座っている距離感はどう考えてもデートじゃない。
「ううん、教室シェアしてるだけ」
 三井先輩がそう言って、それは事実なのに少しだけ傷つく自分がずうずうしくて嫌になる。
「今日の数学のノート見せて」
「寝ちゃった?」
「ううん、多分写し間違えた」
「なるほど。汚いけどこれでいい?」
「ミッチーのノート全然見やすいよ」
 別にいちゃついているわけじゃない。それでも胸の奥の方がぎゅっとなった。
 ページは縦半分に区切って使う。2Hのシャーペンで書いた薄い文字にオレンジと黄緑がぽつぽつ混ざっている。線の間の下半分に収まるくらいの小さな文字がいかにも先輩らしい。ときどき右下の角がオレンジに塗りつぶされているのは眠くて仕方ない時の癖だ。ペンで間違えたところは修正液じゃなくて四角く塗りつぶしている。少しでも先輩に近づきたくて見ているうちに覚えてしまった先輩の癖はこんなにあるのに、肝心の内容は一つもわからないノート。
「あ、ニジョーが抜けてるんだ。ありがとう」
「カヨちゃん、宿題やった?」
「やったよ」
「ここってどうやんの?」
 2人の会話は何を言っているのか全然わからなくて聞こえないふりをした。そうして息を止めるみたいにして宿題をやっているふりをしていると、なるほど、と三井先輩がオレンジで何かを書き込んだ。どうやら解決したらしい。
「じゃあまたねー」
「ありがとう」
「こちらこそー」
 そういって“カヨちゃん”は出て行った。終わった終わった、と嬉しそうにノートを閉じた先輩は上機嫌だ。
「私も3年生になりたいなぁ」
 ぽろりと思いが口に出た。
 どうしようもないのは分かっていても、もし私が3年生だったら、と考えてしまう。肩を並べて3年間の高校生活を過ごすことができたなら、と。先輩のことをミッチーって呼んだりして、学校祭や修学旅行を一緒に過ごして、部活の試合の応援に行ったりするのだ。過ぎてから知った誕生日は「来年は祝うよ」なんて言って、言うのが遅いよって笑う。“カヨちゃん”みたいに勉強を教えることはできないかもしれないけれど、それでもノートに書かれていることが何となくわかって、テストの点数を聞いて凄いねなんて言ったりして、
「3年生になりたいなぁ」
 もう一度言うと、先輩は不思議そうに首をかしげた。
「俺は1年に戻りたいけどなぁ」
 ノートを仕舞いながら先輩が言う。
「そしたらもっと勉強しとく。あと部活ももっとやって、で、彼女作っとく絶対」
「彼女、ですか」
「もう恋も遊びもその他もろもろも大学までおあずけなんだぜ高3なんか」
 やってらんないよなぁ、と言って先輩は立ち上がる。授業始まるから行くよ、と荷物をまとめながら私の手元を覗き込む。
「三角比はめんどくさいけどマジちゃんとやっといたほうがいいよ」
 そう言って先輩はペンで私の書いた式を指す。
「ここ、違うね」
「え、ありがとうございます」
 驚いているうちに、先輩はじゃあねと言って出て行った。閉まった扉を見ながら、恋は大学までおあずけかぁ、と先輩の言葉を思い出す。先輩が私のことを何とも思っていないのは分かっていたし、全然進展がないこの恋はきっと上手くいかないんだろうとも思っていたのに泣きたくなった。それでも馬鹿な私は、3行目のcosαの下にポツンとついたオレンジをこれから何度も触ってしまうのだろう。
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2017年04月29日

勇気と200円

 チューブから出した絵の具をそのまま塗りたくったみたいに青い空は、雲一つさえなくて、カミサマに手抜きされて作られたみたいだった。うちの高校は田んぼと住宅しかない残念な立地だから、4階建ての校舎の屋上を遮るものはなにもない。開放感を具現化したらきっとこんな感じ。そんな開放感を楽しむことも出来ない臆病な私は、校舎にへばりついているみたいな小さな小さな日陰で膝を抱えて石になる。授業中の学校は教室で感じているよりずっと静かだ。その気になれば自分の教室の数学の授業を聞き取れるんじゃないかと思うぐらい。静かな午後。私の心臓だけがうるさかった。罪悪感と不安とに潰されて、ときどき呼吸することも忘れてしまう。やっぱりサボるんじゃなかった。私を屋上に連れてきた張本人は、授業が始まって学校が静かになるとどこかへ行ってしまった。遅いなぁ。割れたペンキの隙間から錆が滲むドアを睨むと、それを待っていたかのようなタイミングで嫌な音を立てて重いドアが開いた。
「先輩、ガリガリ君とパピコどっちがいいですか?」
 始業のチャイムが鳴ってから終業のチャイムが鳴るまでの間、校外へ出ることが許されていない私たちにとってあり得ない二択を提示しながら平沢が顔を出す。校則を何とも思っていない様子の彼女は授業にもあまり出ていないらしい。同じ高校に来ていたことさえ知らなかった中学時代の後輩が、私につきあってのサボリを決めるまでに時間はかからなかった。
「じゃあパピコ」
「やっぱパピコかぁー」
 そういいながら平沢は日向で眩しそうに太陽を見上げる。教室から見えるかもしれない、なんて怯んだりはしない。いじめが原因にしても不良的なものにしても、授業をサボる人というのはなんとなく日陰みたいなイメージがあったけど、平沢は日向がよく似合う。出席日数ぎりぎりのところまで授業をサボるその理由は知らないけれど、風船の糸が切れて地上に戻れなくなったみたいな、そんな理由なんじゃないかと思う。
「先輩、ソーダでいいですか?」
「え」
 反応できないうちに、青色のパッケージを手渡された。平沢は何もなかったみたいな顔をして味違いのガリガリ君をあけている。
「・・・・・・パピコは?」
 ガリガリ君ソーダ味、の文字に困惑しながら聞いてみると、平沢はコンビニの袋からパピコを取り出す。
「パピコはやっぱ二人で分けないと、ですよ」
 得意げな顔をしているが、ガリガリ君とパピコとの二択を投げた理由がさっぱりわからないままだ。ヘヘヘ、と笑った平沢がシャクリと音を立ててガリガリ君をかじる。こぼれた欠片が焼けたコンクリートの上で溶けて染みになる。あまりにおいしそうで最初の二択の意味なんかどうでもよくなって、私も偽物のソーダにかぶりついた。そこからは私も平沢も、隙があれば棒から落ちようとするアイスに振り回されながら夢中で食べた。少しだけベトベトになった親指と人差し指をこすりあわせている私の横で平沢がパピコを切り離す。
「お待ちかねのパピコです」
「パピコ中毒みたいな言い方やめてくれる?」
「でもパピコおいしいですよね」
「たまに食べたくなるよね」
 今度は柔らかくなっても落ちないから、私たちにも余裕がある。結露した水滴で指のべたつきも気にならなくなってくると、次に気になったのは平沢の横に放り出されているコンビニの袋だった。ガリガリ君2つとパピコ。3つのアイスを買ったにしてはあまりに大きい、スーパーから帰る主婦が下げているサイズの袋がそこにはあった。
「何買ってきたの? あと、アイスいくらだった?」
「とりあえずアイスは勝手に買ってきたので100円だけもらいます」
 私から受け取った100円をポケットにつっこんで、平沢がコンビニの袋から取り出したのは氷枕2つだった。少し堅くなってひび割れている茶色の分厚い袋と、その口を止める金属製のクリップ。氷枕だと認識した瞬間に懐かしいゴムの臭いが鼻に届いた。
「保健室から借りてきました」
 借りてきたと平沢は言ったが、十中八九無断だろう。
「大丈夫なの?」
「大丈夫です。使ってないので。熱出して保健室行くと冷凍庫からアイスノン出てきます」
「・・・・・・詳しいね」
「1学期は授業サボるのにちゃんと仮病使ってたんです」
 ちゃんと、の使い方がおかしい気がしたけれど、青空と氷枕とのミスマッチの前では何も言う気になれなかった。平沢は上機嫌でコンビニの袋からロックアイスとミネラルウォーターのペットボトルを取り出して、二つの氷枕に半分ずつ入れていく。冷たい水とちょっと特別感のある氷が次々と口に入れる気さえ起きない何かに変わっていくが、平沢は怯まない。なんたる贅沢であることか。私がもったいないだとか氷がかわいそうだとか考えているうちに2つの氷枕が完成した。
「どうぞ」
 くたん、とクリップの重みで折り曲がった氷枕を受け取る。形の定まらないそれは想像より重かった。
「一回屋上で使ってみたかったんですよねぇ」
 日の当たるコンクリートに寝ころんで、早速枕を頭の下に入れた平沢が言う。私も真似して寝ころんでみる。日陰に入りきらなかった膝下がジリジリと焼けていくのがわかるくらいの暑さの中で、ゴム越しの氷水の冷たさはとても心地よかった。寝返りを打てば耳元でたぷんと水音がするのもいい。これは、本当に、
「めっちゃいいですね、これ」
 私が言おうとしていたこととほとんど同じことを平沢が言った。
「氷がもう少し簡単に用意できたらなぁ。ロックアイスって妙に高くありません?」
「んー、買ったことないけどどのぐらいなの?」
「250円くらいでした」
「あー、気軽に氷枕出来る値段ではないねぇ」
 250円なんて、下手したらお昼ご飯1回分になる。確かにこんなアホみたいな使い方をするには少し抵抗のある値段だ。
「水が2リットルで100円だったんですよ、氷1キロって水1リットルでしょ? 50円じゃないですか!」
「まぁ、凍らせたりとか凍ったまま運んだりとかもあるし」
「でも高くないですか? 50円って2割ですよ?」
「確かに」
 氷の値段のうち水の値段は2割。残りの8割はなんの値段なのだろう? そんなことを考えると、耳の横にある銀色のクリップを外して中身を日の下でじっくり見たくなってくる。授業をサボって何を考えているんだって感じだけれど、平沢もじっと黙って考えている。
「私に足りない勇気の値段、とかですかね」
 ぽつんと平沢が出した結論は、言われてもピンとこないものだった。勇気に値段が付くかどうかはさておき、平沢の行動は大胆で勇気が足りていないとはとうてい思えなかった。
「だってもし調理室の冷蔵庫を借りるとかできたら払わなくてよかった200円じゃないですか。さすがに調理室忍び込んで氷が凍るまで隠し通すってのは勇気がないから、コンビニで謎の200円を多く払って氷を買う、みたいな感じでしょ? じゃあ足りない勇気の値段かなって」
 なるほど、と思わず喉元まで出掛かった言葉を飲み込んだ。一瞬納得しかけたが、足りない勇気を補った平沢、すなわち保健室で氷枕を拝借し調理室で作った氷を詰めて屋上で授業をサボって寝ころんでいる女子高生というのはあまりに異常だ。
「調理室の冷蔵庫を我が物顔で使うようになったら、それは生徒じゃなくてヌシ的存在だよ」
「ヌシかー楽しそうだなぁ」
「3年になるころにはなれるんじゃない?」
「卒業できなそうだなぁ、その人」
 授業をサボっているくせに卒業はしたいのか、と意地悪なことを考えていると、急に平沢が黙った。真剣な表情で、しーっ、と囁いて人差し指を唇の前で立てる。静かにすると階段を昇ってこちらに近づいてくる足音が聞こえた。平沢は忍者のようにコンビニの袋やアイスのごみをかき集めて雨水を流すためのパイプに押し込んでいた。屋上にいることは誤魔化しようがないとしても、余罪は隠し通すつもりらしい。ゴミは隠したとしても一番やばい証拠、すなわち氷枕はどうするのだろう、と眺めていると、なんと平沢はセーラー服の背中にそれを押し込んだ。一瞬でばれる、あまりに雑な対処法に笑いそうになったが私もそれをまねる。背中に入れるとその冷たさは心地よいとは言えそうになかった。
「私が無理言ったって言いますから、先輩は話を合わせてください」
「駄目だよ、私がもともと教室行きたくないって言ったんだし」
 ひゅうと体温が下がっていくのはきっと氷枕のせいだけじゃない。きっと私の顔は真っ青だ。
「先輩、無理しなくていいですよ。まぁ、言い訳したところできっと怒られますけど何も言わないよりマシでしょう」
 余裕の表情で平沢が言う。こんな状況なのに堂々としていて、私にはとても信じられない。無理しているのは事実で今にも泣きそうなのはきっと表情に出てしまっているから、それ以上平沢に意見することはできなかった。心臓がまたバカみたいにうるさくなって、重いドアが開かれた時には止まってしまうかと思った。
「え、白川くん?」
 顔を出したのはクラスメイトだった。不真面目な印象はない、どちらかと言えば静かで真面目そうなタイプ。先生じゃないと分かると気が抜けて、背中から氷枕がべしゃりと落ちた。白川くんが屋上に来たというのも驚きだったが、もっと驚いたのは平沢が彼を知っていたということだ。
「なぁんだ、白川さんか。焦りましたよ」
「平沢さんいるの見えたから。今日はなんていうか、意外な組み合わせだね」
「中学のときの部活の先輩です」
「なるほど、バド部だったって言ってたね」
 自然にそんなやりとりをしている二人を呆然と見ていると、白川くんが照れくさそうに笑う。
「えーと、こっちはまぁサボり仲間、みたいなやつ」
「白川くんは体が弱いんだと思ってた」
 授業中よく保健室へ行くのはサボっていたのか、と疑心暗鬼になりかけたところで白川くんが訂正する。
「病持ちはホント、そんな嘘はつかないよ」
「私が仮病使いまくってた時に、保健室行くとよく白川さんがいたので仲良くなったんです。あと白川さんが授業抜けるときは基本体調悪いんで、あんまサボりって感じじゃないです」
 そう言いながら平沢は氷枕を白川くんに渡す。白川くんは「氷枕だ、すごいね」と嬉しそうに受け取って、そのままごろんと寝ころんだ。その顔色は確かに血の気が引いていて、作り物のように白かった。
「回復するまで寝てるだけなら外の方が絶対気持ちいいよ、って言われてからときどき保健室に行ってないんだよ。平沢さんって面白いよねぇ」
 くすくす笑いながら白川くんが言う。ときどき保健室に行ってない、と言った口調は悪びれる様子もなくて、白川くんも平沢の仲間なんだなと思った。きっと、ここに先生が近づいてきたとき白川くんも余裕の表情で怒られることをあっさり受け入れるんだろう。褒められたことではないのは事実なのだけれど、白い横顔にさっきの平沢の表情が重なって見えて、憧れのような感情が胸に涌く。サボり魔なのだけど、自由とか青春とか、そんな単語が似合う人たち。
「これでいっか」
 私の気など知る由もない平沢はさっき潰したペットボトルをぺこんと復元するとそれを頭の下に敷いて寝ころがった。
「氷枕取っちゃってごめんね」
「いいですよ。気持ちいいでしょ?」
「うん、最高」
 そんなやりとりを聞きながら、私も氷枕で寝ころんだ。さっきと同じ体勢なのになぜか居心地が悪くて何度も寝返りを打つ。たぷん、たぷんと水音が耳障りだ。
「氷はどうしたの?」
「コンビニで買ってきました。あ、さっき先輩とも話してたんですけどコンビニの氷って高くないですか?」
 平沢はさっき私とした話を要約して白川くんに伝える。
「白川さんはこれ、なんの200円だと思います?」
「うーん、氷で存在することに対する価値、みたいなものじゃない? 平沢さんは勇気十分だと思うし」
 平沢は納得いかないようで唇を突きだして黙り込んでいる。白川くんがのんびりした口調で付け加える。
「だってこんな暑いのに氷があるのってすごいじゃない。しかもここ学校だよ。200円プラス平沢さんの勇気でこの氷は存在していると言っていい」
 白川くんの言っていることは夢はないけれど、平沢の意見より正しい気がした。まだ納得できない平沢に、白川くんは出荷から手元に届くまでの流れで200円を説明している。1つ1つ聞くとなんという苦労だろう。200円が安いとさえ思えてきた。白川くんはプロショッパーにでもなればいい。
「なんとなく、分かった気がします。でもやっぱ高いと思います」
 一通りの説明を聞いた平沢はそう言った。会話に入ることなく石になりかけた私はぼんやりと白川くんの言葉を思い出している。
“200円プラス平沢さんの勇気でこの氷は存在していると言っていい”
 たぷん。首の向きを変えてまだ話し込んでいる2人を見た。この2人に憧れて遠慮しているんじゃなく、一緒にこの時間を過ごす方法を1つだけ思いついた。
「平沢、これ」
 無理やり握らせたのは200円。
「なんですか? 高い高いって言ってますけど別にお金が欲しいわけじゃないですよ」
 笑いながら私にお金を返そうとする平沢の手を押し戻してひとつ伸びをする。200円で私が買いたいものは一つだ。
「学校で氷が存在することに対する価値、の一部を負担しようかと思って」
「なんのために?」
「先生に見つかったら、ここに氷があるのは私の200円と平沢の勇気のせいだから平沢と一緒に怒られる」
 平沢は眉間にしわを寄せて私の顔を見た。
「怒られるために200円って先輩おかしいですよ」
「私は氷が解けるまでの間のスリルを買うの」
 白川くんが「なるほど」とつぶやいた。返すことを諦めたのか、平沢は百円玉を一つずつ両目に乗せて遊んでいる。交渉成立ということでいいだろう。心臓はまだ少しうるさいけれど、それでも前より気にならない。見つかったら怒られればいいじゃないか、という開き直りとともに過ごすとサボりの時間が少しずつ輝きだした。

「氷が解けたら先輩、どうするんですか?」
 唐突に平沢が聞いてきた。寝返りするたびに感じ取れた氷の感触は、もう慎重に探さないと見つからない。サボり始めてから1時間近くが経過して、今は日本史をサボっている。白川くんはとっくに授業に戻ってしまった。氷が解けたあとのことは200円を払った時に決めていた。
「教室に戻ろうと思うよ」
「大丈夫なんですか?」
 教室に行きたくない、と私が漏らしたとき、平沢は本当に心配してくれて、それは今でも同じみたいだ。
「すごい楽しかったから大丈夫」
 行きたくないという気持ちはあるけれど、開き直り方が分かった今、教室はそんなに怖くなくなっていた。
 それからしばらくして氷枕はぬるくなった。クリップを外して、焼けたコンクリートに枕の中身をぶちまけた。もちろん氷は一つもなかった。
「しんどくなったら、またサボりましょう」
 ずっと日向に置かれていたから私のよりずっと早くぬるくなっていたはずの枕に寝ころんだまま、平沢が言う。
「ありがとう」
 やっとお礼が言えたと思ったら鼻の奥がつんとして、慌てて袖で目元をぬぐった。もしも次があったら、今度は私が氷を買ってこれるといいなと思う。
posted by Ag at 23:45| snips

2017年04月20日

何とか

 キーボードがはずれたのを何とかする、といってとりあえずボンドでキーボードくっつけたりしてみたんだけど、そういうことじゃあないだろうってことで、タブレットからも更新できるようにしてみた。きっと必要なのはこういうことだったんだろうとは思うけれど、もうちょっと何とかしたいなぁ。
 ずっとブログってこまめに更新するタイプだったのだけど、Twitterするようになってからあまり更新しなくなって、それはなんか吐き出したいものを140字ずつ吐き出してしまうからなかなかコップが一杯にならないみたいな感じなんだというようなことを何年か前にもいっていたけれど、それでも未だにブログを残しているのはだらだらキーボードをたたきながらあーだこうだ考えている時間が好きなんだろうなって思う。最近あまり好きなことをやっている時間をとれないので、ブログを更新するというのは趣味として復活させたいなぁ、なんて。目標は月1。毎回いってるペースだけど、これがなかなか難しいのだよねぇ。
posted by Ag at 20:09| memo

2017年04月19日

おひs

 memoが表示されなくなってるなーとは思ってて、でもなんかもう最新記事を表示させるJSわけ解らんけど言われたとおりにやりましたみたいな感じで設置してたしいろいろ考えたくないし関係ないけどnのキーボードはずれてめっちゃ打ちにくいし、そんなこんなで放置してたんだけどやっとまた見よう見まねで元に戻しておきました。表示されなくなったの1月だそうです。3か月放置。すみません。
 本当にどうでもいいのだけれども、nのキーボードが外れました。折れました。キーボードはずれるのはなんとこれが初めてで少し困惑しています。あと、じゃあキーボード買いなおさなきゃなぁって気持ちになれないことにもそこそこ困惑しています。いかに最近キーボードを使ってないかという話。いつの間にかスマホに慣れちゃってもうってやつですね。そういう変化に、お話を書くこととかブログを更新することとかもフィットさせていかないとまた3か月放置とかになるんだろうなって。ちょっとテストでブログ長めに書いてみてるけど(用件だけをかくなら「めっちゃ放置してたごめん」でおしまいだ)、なかなかnって使うんだなって新発見だしいかんせんすっげぇやり辛いし、少しどうやってこの場所を維持していくかということも考えてみてもいいかもしれないなぁとふんわり思います。こんなに放置しても、ここをなくすという選択肢はない感じです。今のところ。
posted by Ag at 22:03| memo

2017年01月24日

私と彼との(略

 これも、拝啓(略)と同じでヘキライに参加したやつです。月イチくらいで考えていけたらいいなってぼんやり思ってます。書けるかどうかは置いておいて、考えるという時間だけでなんか十分な気がします。
 帰り道、というテーマだったのだけど当たり前のように高校の時に利用していた駅が浮かんだ。田舎の割にいろんな高校の生徒がいる駅だった。近くにいっぱい高校があった。今はちょっと路線が相互乗り入れやなんやがあって利用する生徒は少し減っているのかもしれないなぁと思う。まぁ、それは置いておいて。高校の帰り道が今でも思い浮かぶのは、高校の登下校で顔を合わせるだけの知り合いが結構いて、その半数以上となんかお別れを意識する前に合えなくなってしまったのが大きいなぁと思う。書いた後にツイッターでぼんやり話していたけれど。お別れを言いたいなっていうのはきっと今でも引きずっていて、だからヒノキ君とアリナガさんは同じクラスだけど電車の中だけのつながりにして、それでちゃんと卒業まで書きたいなって思ってるんだと思う。大人になったし親にもなったし、もう少し大人が出てくる話ばかりになるのかなとも思っていたんだけれども、どうにも青春時代にやり残したことが多すぎて、やり直すためにお話をかくことも多いのでこれからも相変わらず高校生はたくさん描くんだと思う。
posted by Ag at 21:02| memo

2017年01月21日

私と彼とのカウントダウン 10月

「またね」
「ばいばーい」
 JRの駅前で手を振って友達と別れる。私は一人、駅を通り過ぎてもう少し歩く。10分ほど歩くとやっと昭和からタイムスリップしてきたような駅舎が見えてくる。JRとほとんど同じところを走る路線でありながらJRより遅いし本数少ないし高いという三重苦を抱える南鉄らしい、薄暗くてレトロじゃなくておんぼろと言った感じの駅だ。
 南鉄を利用しているのは、きっとうちの高校じゃ私ともう一人だけしかいない。あとは駅直結みたいな校舎の山商に通う人ばかりで、緑色のブレザーの中で二人だけの黒のセーラー服と学ランはいつも酷く浮いている。セーラー服を着ているのが私。学ランの方は奇跡的に同じクラスで名前も知っている。3年C組、ヒノキマサタカ。しかし私が知っているのはそれだけだ。電車の中ではただの一度も挨拶さえしたことがない。教室の中では話したことがあったとして連絡事項だっただろうし、席が近くになったこともない。ただ、電車の中ではずっと緑の中に一人だけいる黒を視界の隅で意識している。そういう関係だ。
 私とヒノキ君はずっとそういう関係なのだろうと、勝手に、その関係が崩れる瞬間まで私は思い込んでいた。その関係を崩したのはヒノキ君だった。
「うっわ、アリナガさん久しぶり」
 駅に着くなりヒノキ君にそう言われて、私はしばらく「えっ」だの「あっ」だのと言葉に詰まってしまった。学校ではさっきまで同じ教室にいたからきっと駅で会うのが久しぶりという意味だろう、と頭の中で整理して改めて口を開く。
「最近、一本あとのに乗ってたからかな」
「アリナガさんいないと臨時委員会とかあったっけとかいろいろ考えてマジ不安だったんだよ。しかも今日なんか全然人いないし」
「山商、今日文化祭の振り替え休日だから」
「なるほど」
 がらんとした駅舎はいつもより広く、暗く見えた。そわそわしちゃった、とヒノキ君が言うのもわかる気がする。
「アリナガさんはさーやっぱりアレ、彼氏?」
 ずっと聞いてみたかった、ってのが口調からにじみ出ているような言い方だった。アレ、というのは私がいつも一緒にいるちゃらくて馬鹿だけど顔だけはいい山商生のことだろう。彼こそが、私が三重苦の南鉄をつかって登校している理由だった。受験生の憂鬱を一つも理解してくれなくても、20.2という驚異的な偏差値を見せられても、面食いすぎると同性の友人からディスられても、それでも大好きだった私の、
「先週、元彼になりました」
 すっと過去形にできたのは自分でも驚きだった。そうなのだ。先週、大好きだったイケメンの恋人は私に南鉄の定期を残して去っていった。学校じゃ会えないからせめて一緒に電車乗ろうなんて言われたときにどうして一緒にJRという選択をしなかったのか、悔やまれてならない。
「じゃあ南鉄、俺だけになるのか」
「や、定期使い切るまでは南鉄」
「なにそれ地獄感ある」
 ヒノキ君が笑う。笑ってくれたのがせめてもの救いだ。
「ホント、あのときのの自分殴りたい。見て、これ、12月まで」
 クリスマスにイケメンから指輪を貰って浮かれた結果がこれだ。ヒノキ君の言うところの地獄はあと二カ月以上続く。購入日と期限を見比べてヒノキ君が目を丸くする。
「一年分買ったのかよ」
「一年買ったさ、軽く死にたい」
「や、でもかっこいいと思うよ。来年まで一緒にいようぜって言うことだろ? 俺、絶対一カ月とかしか買えないもん」
 だって俺二週間で別れたことあるもん、とヒノキ君は言う。二週間で別れる気持ちはわからないけれど、たった二カ月がこんなにも長く感じるというのにどうして私は一年先も同じ気持ちが続くと信じていたのだろう。
「一年はまるでプロポーズだぜ」
 はぁ、とため息をつきながらヒノキ君が言った。
「別れたけどね」
「バツイチ」
「つらい」
 ハハハという乾いた笑い声をガタンゴトンと勢いなく入ってきた二両編成の電車がかき消す。電車に乗るのは私たちの他には小さな風呂敷包みを抱えたおばあちゃんが一人だけだった。
 いつも電車の一番後ろから真ん中あたりにいるヒノキ君を見ているのが当たり前だから、一緒にいるのは不思議な感覚がした。ほんの数メートル位置が違うだけなのに、窓から見える景色も伝わる振動も少しだけ違うような気がした。
「なんで別れたの?」
 唐突にヒノキ君が言った。
「昨日、文化祭の日がオープン模試で」
「うわぁ」
「バンドマンの俺とオープン模試どっちが大事なのってやつ」
 文化祭はいけそうにないと模試に申し込むときに言っておいたのに、なぜか直前までサプライズを信じていた元彼は「ありえない」を連呼して去っていった。全く理解しようともしてくれなかったその態度に追いかける気もしなかった。
「どっちが大事ってそりゃあオープン模試だよなぁ」
 あんなに頑張っても理解してもらえなかったことを、ヒノキ君は当然のように言う。なんで別れたの? とヒノキ君は言ったけど、今となってはどうしてあれほど価値観の違う人と付き合ったのだろうって感じだ。
「バンドはホントに見たかったんだけどさぁ」
 付け足した言葉は本当のことだったけれど、言い訳にしか聞こえなかった。
「それだけで別れちゃったんだ」
「なんか、ここから先、きっとこういう価値観の違いが何回もあるんだろうなって思ったらうんざりしちゃって」
「確かに」
 今回のことを乗り越えてもどこかでは別れちゃったのかもしれないなぁ、とヒノキ君が言って、学校が違っていても大事なことが違っていてもきっと乗り越えられると信じていた自分を思い出して少しだけ泣きそうになる。
「私は残りの高校生活は受験勉強と付き合うよ」
 泣きそうなのを誤魔化すために言った強がりだと気付いたのかどうかは知らないけれどヒノキ君は声を出して笑ってくれた。
「マジでそれ」
「面倒事は少ない方がいいしね」
「やっぱアリナガさんかっこいいな」
「もうちょい可愛い方がよかったんだろうけど」
「いや、でもいろいろ聞くと聞けば聞くほどアリナガさんみたいな人いいなって思う」
 うっかりすれば自惚れそうになる冗談の甘い台詞に潜む違和感。
「みたいな人って言われてもね」
 アリナガさんいいなって思う、だったら多少は喜んだかもしれないが、「みたいな人」のせいで台無しだ。もちろんさっき初めて言葉を交わしたのだからヒノキ君が私のことをいいなって思ってるわけはないんだけれど、それでも引っかかる言い方だったので指摘してみたらヒノキ君は顔の前で手を交差させてバツを作る。
「いや俺、アリナガさんは無理だよ」
「無理ってひどくない?」
 いいとは思われなくてもいいけど、こんな風に話している相手から無理と思われていうのはさすがに悲しい。けれどヒノキ君は無理無理と言って譲らない。
「いや、元彼めっちゃイケメンだったし。あの次は荷が重い」
 意外な理由にちょっとだけ笑ってしまった。
「そういうの気にするんだ」
「めっちゃ気にする」
「ちょっと意外」
「だって背も高いしキンパツだし目立つからアリナガさんが付き合いだす前からイケメンいるなーって見てたし……あ、ちがったらごめんなんだけど」
 急にヒノキ君が声のトーンを落とす。
「もしかしてそれで電車遅らせてた?」
「うん、まぁ、私も私で目立つしね」
 深刻にならないように、出来るだけ明るく言ったつもりだけれど上手く誤魔化せたかどうかはわからない。元彼と顔を合わせたくなくて電車を変えていたなんてダサくて恥ずかしい。
「そういうの気にするんだ」
「さすがにね」
「ちょっと意外」
 ヒノキ君は私がさっき使ったのと全く同じ言葉を選んだ。もしかすると、さっき私が笑ったことを怒っていたのかもしれない。まぁ、どっちにしても明日からはまた同じ教室にいるだけという関係に戻るからどうでもいいだろう。そんなことを考えて気付かないふりをした私に、ヒノキ君は意外すぎる誘いを持ちかけた。
「アリナガさんさ、明日からも俺と一緒に帰ろうよ」
「え」
 ヒノキ君の意図が読めなくて言葉を探す。ヒノキ君は窓の外を眺めてのんびりとくつろいだ様子で続ける。
「俺と一緒だったら少しだけ気になんなくない?」
「それはそうかもしれないけど」
「だって次の電車って45分後だよ、面倒だしやめた方がいいよ」
「それはそうだけど」
 私にはメリットがあるが、ヒノキ君にとってのメリットは一つも見当たらなくて、それが気持ち悪い。面倒くさそうにヒノキ君は言う。
「だからさー、アリナガさんが同じ電車にいないとなんか不安なんだよ俺」
「でもなんかそれって私、ヒノキ君に乗り換えたみたいに見えない?」
 ヒノキ君はにやりと笑った。
「そこはほら、新恋人をアピってく感じで」
「新恋人?」
「受験勉強。明日から見せつけるみたいに電車の中で勉強しようよ」
 かけてもいないのに、眼鏡をクイっと上げる動作をして得意げにヒノキ君が言う。どうやらこれが本音みたいだった。たしかに山商生ばかりの電車の中で参考書を開くのは少し勇気が要るのだ。またテストあるのやばくない? なんて声が聞こえてくるたび悪いことをしているような気分になる。それも二人なら少し気にならないような気がする。
「いいね、ちょっと楽しそう」
「じゃあ決まり」
 ガタン、と大きく電車が揺れて気付けば駅についていた。
「じゃあまた」
「うん、また明日」
 見ているだけだったクラスメイトに初めて手を振った帰り道、足取りは少しだけふわふわして、心臓は少しだけ早かった。並んで走るJRの電車に追い抜かれていく古い二両編成の電車は夕日に照らされてキラキラ輝いて見えた。
posted by Ag at 22:27| snips

2016年12月25日

拝啓、メガネ姿の君へ

 まず、この話はヘキライに参加した話です。土曜にお題が発表されて、次の土曜までに何か創作する系の感じ。リンク先から他の人の話も読めます。ぜひ。
 で、お題メガネ。通常運転で眼鏡眼鏡言ってるせいで何ともお題感なかったのですけど、一応お題。で、ヘキはそもそも「性癖」のヘキだそうで、眼鏡の何が好きなんだろうと一週間考えてみていた。まぁ、分かっていたのだけれど極度の弱視(眼鏡ないと歩けない)とかオフだけ眼鏡が好きなんだな。で、オフだけ眼鏡にスポットあてて書いたのが拝啓(略)。オンのために上げたまつ毛がオフになっても残っているからレンズを撫でてしまう様子、というマニアックなものを描きたかったがためにまさかの眼鏡女子。
 手紙というスタイルは時間のなさから採用した。今までのヘキライも考えてはいたけど形にならなかったことが何回かあって、完成させるとしたら一発書きくらいの感じでやらないと無理だなって思ってたし。これが1カ月くらいあったとしたら、喧嘩のシーンがあって汐海まりんのくだりがあって最後に鍋でもつつきながらプロポーズみたいな感じで長めの話になったんだろうけどそれじゃあ絶対間に合わない。まぁ、結果、手紙を書くというのはなかなか納得のいける時短になったなって思う。さてこの手紙、プロポーズの言葉は割と最後に書き足された。最後はどう落とすか、っていうのを考えずにレンズの裏をまつ毛がなでるのが好きとか書いてしまって、うわなんだこれ気持ちわりぃと思った結果ストーカーから届いた手紙っていうのもいいかなとか思っていた。コンタクト外した君が好きだよって突然届く身に覚えのない手紙。怖い。プロポーズかストーカーかというなかなかあれな二択でプロポーズになったのはストーカーにすると手紙を見た反応を描かなければならなくて場面が一つ増えるからっていうすごく夢のない理由。
 手紙が気持ち悪くなってきたあたりで長ければ長いほどいいなっておもったので、手直しは加筆のみという狂った感じで書き上げた。1700文字。お話と思うと短いけれど手紙だったら気持ち悪い。一切消さずに(もちろん、語尾を変えるとかはあったけれども)書き足していくからホントわけが分からなくなっていきなりペン書きした手紙としてはリアルな感じになった。最後の加筆ではもうどこに何を淹れれば文章が崩れないのか考えるのも面倒で()という必殺技で入れていった。()は反則だろうと思っていたけれど、煮え切らない書き手のイメージに割としっくりきた。なんやかんやでいろいろあったけどそれなりに納得いくものが書けたと思っています。
posted by Ag at 21:42| postscript

2016年12月24日

拝啓、メガネ姿の君へ

 先週末の夜に「君がメガネをかけている姿が好きだ」というようなこと(本当に無意識で口に出していたので正確には覚えていません)を僕が言ったら、君は「冗談言わないで」と言って(こちらも正確には覚えていないのですが、とても冷たい口調だったことだけが頭を離れません)不機嫌になってしまいました。君が自分のメガネ姿をあまり気に入っていないことは分かっています。メガネがないと物足りないと言われてしまう僕とは違って(20年もかけていると、自分自身でもメガネがないと自分でないような気がします)、君の大きな目の周りにメガネのフレームは邪魔になりますね。分厚いレンズが輪郭や目を歪めてしまうことを気にしているのも知っているし、だからドライアイなのに無理してコンタクトレンズを使っていることも知っています。それなのに君を不機嫌にさせてしまうようなことを言ってしまってごめんなさい。君を不機嫌にさせる気は少しもなかったし、冗談を言ったつもりもありませんでした。あのとき僕は心の底から、メガネの君が好きだなぁと思っていたのです。
 そのことを柳井(一番仲のいい同期です)に話したら「メガネ、超わかる!」とやたら喜びました。彼がオススメだと教えてくれたアプリは魔法少女を育成するゲームでした。柳井イチオシのメガネをかけた青色の女の子(汐海まりんちゃん)は君より目が大きくてレンズから目が上半分はみでていました。メガネが役に立っているのか、むしろフレームが視界を遮っているのではないか(よりによって水色のセルフレームなのです)と不安ですが、不思議とメガネは似合っています(メガネの似合う似合わないって何で決まるんだろう?)。真面目で世話焼きな委員長は良い子だけれど君の代わりにはなり得なくて、アプリは2時間でアンインストールしました(さすがに柳井の目の前で消すのは気がひけたのでレベル3までは育成しました)。柳井には申し訳ないのだけれどそういうことではないのです。メガネをかけている子が好きとか、メガネの似合う子が好きとかそういうことではないのです。
 朝にメガネの下にこっそり置いた(家を出る前に気づかれてしまわないかドキドキしました)この手紙に気づいたということは、君は仕事から帰ったところなのでしょう。乾燥してゴロゴロする目を一刻も早く休めるために洗面所に来たのでしょう。疲れているとは思うけど言葉足らずで伝わらなかった僕の気持ちを説明させてください。
 僕が好きなのは君のメガネ姿そのものというわけではありません。君のメガネ姿については(君が自分で言うほど酷くはないと思いますが)まあまあ似合っていないなぁと思います。僕が好きなのは、君が帰ってからこの手紙に気づくまでにした一連の行動なのです。僕が夕飯を作って待っている夜に、君が僕の部屋で当たり前にコンタクトレンズを外してメガネで寛ぐのが僕はとても嬉しいのです。
 先週末の夜も、「ただいま」と言ってうちに来た君は夕飯のメニューを確認するより先に、少し赤くなった目をこすりながら洗面所に向かいました。水の音やレンズをしまう音がして、戻ってきた君はメガネをかけていました。「今日は鍋だよ」と僕が言うと「やったぁ」と君は嬉しそうに鍋を覗き込んで、湯気でメガネを真っ白にしていました。レンズの内側のくもりはくるりと上を向いた長いまつげに撫でられて水滴となり垂れていきます。その瞬間に幸せがこみ上げてきて、メガネをかけた君と過ごす時間が好きだなぁと思ったわけです。それを口に出したのは、こんな日がずっと君のメガネが老眼鏡になっても(その頃にはきっと僕のメガネも老眼鏡になっているんだと思う)ずっと続いていけばいいなと思ったからなのです。
 言葉にするのが下手なので手紙にしようとペンを取ってみたら余計なことばかり書いてしまいました。また大切なことが伝わらないと困るので(本当はこういうことは苦手で、先週末のあの夜も遠まわしな言葉から気づいてくれたらいいなと思っていて、いつも君の鋭さに甘えてきたのだけれど)きちんと言います。
 僕と結婚してください。

追伸
 メガネ、まつげのあとだらけだったので(マスカラ?みたいのがついていました)拭いておきました。

メガネ姿の君へ
posted by Ag at 18:33| snips

2016年07月04日

おひs(略)

 まぁ、だいたいこうなる気はしていたけれど随分放置してしまった。今更だけど無事、ヒトノオヤになりました。何となくずっと、二十歳になった時も就職した時も結婚した時も、中高の制服を着ていたころを引きずってイマイチ大人になれていないような感じがしていたのだけど、さすがに出産というのは劇的だった。イマイチ大人になれていないような感じ、というのは、振り返ってみるにまったく成長していないというのではなくて連続した変化で実感できないせいだったなって思う。ライフスタイルの変化があっても進学も就職も結婚も生活の8割くらいは変わってなくて残りの2割が変化した感じで、そんな劇的な変化じゃなかった。ここでいう割合は時間じゃなくて気持ち的なやつ。時間でいったらもちろん、就職した時とか学校いってた時間が仕事にすり替わるわけだから睡眠時間以外のすべてが変わったし引っ越しもしたしまあまあな変化だったんだけども、どうにも学校とか仕事とかは私にとってさほど重要じゃなくって、そんなことより付き合ってる友達とか見ているサイトとかお箏を弾くこととかツイッターのタイムラインとかの方が大事で、社会的な肩書が変わっても大事なことがそのまま残ったからそんなに変化はなかった。もちろん明日から社会人かーとか明日から人妻かーとか飛び込む前はそれなりに緊張してるんだけど、なってみたら何だ前と一緒じゃん、って思うみたいな、そんな感じ。だから今回もそんな感じであんまり変わんないのかなって心のどっかで思ってた。だけど今回はうおお違うステージはいったぞって感じがすげぇする。だって「大事なこと」自体がすり替わってしまうんだもの。今まで大事にしてたいろんなことを追い抜いて「こども」ってのがランキングのトップにばーんと入っちゃうんだもの。
 ブログをしばらく更新しなかったのは、子育てで忙しかったからとかじゃなくて(もちろん忙しかったけど書く時間ならきっといくらでも作れた)、なんか書こうとするたびに何を報告したらいいのかわかんなくなって放置してたんだけど、やっと自分の変化を整理できてきた今日この頃。なんか、子育てってきっとあれやりたいこれやりたいって思いながらも自分の時間を犠牲にしなきゃ駄目なんだろうなと思ってて、もっとストレスがあるかなと思っていたのだけど、そもそもやりたいこと自体が変化してしまうんだなというのは思いもしなかった。
 そんなわけで割と楽しく日々過ごしております。
posted by Ag at 23:33| memo

2016年02月07日

姫の嫁入り

「とりあえず乾杯」
「おう」
「やー、ひーちゃんが結婚かー」
「ホントそれ」
「さみしい?」
「いや、それはないけど親からのプレッシャーがやばい」
「あー、結婚しろって?」
「そ。ハハオヤが電車捨てろって言い出した」
「あの座敷の鉄道模型?」
「そうそう」
「あれすごいよね」
「だろ? で、あれ捨てても俺に彼女は出来ないからね、って思う」
「はは」
「無趣味のアラフォー独身男ができるだけだから」
「この前30になったと思ってたんだけどなー」
「雛子が30代だしな」
「そっか、ひーちゃんらも30か」
「そら結婚もするわな」
「でもあのイケメン若くない?」
「ライカくんなー、雛子の5つ下だから……俺の10個下か! 28!?」
「若っ! すげぇ意外だった、ひーちゃんが年下と結婚すんの」
「なー、俺も妹があんな面食いとは思わなかったよ」
「はは、まーくんとタイプ全然違うしね」
「雛子はなんだかんだでまーくんと付き合うと思ってたんだけどな」
「結局1回も付き合ってないの? あのふたり」
「うん。雛子はたぶんずっと好きだったんだろうけど」
「だよねぇ。俺、よくこの賭けうけたなって思うもん」
「絶対勝てると思ったんだけどなぁ」
「ずるいよね、先輩権力で無理やりだもん」
「まーまーまー、若かったってことで」
「若いなんてもんじゃないよ、何年やってんのこれ」
「中学くらいからだから25年とか?」
「25年」
「だってあと少し待ったら勝てる感じなんだもん、ずっと」
「ケンちゃんはまーくんが結婚した段階で負けを認めるべきだったんだよ」
「だって雛子あきらかに未練あったから……」
「ひどい兄だな」
「聡に負けるのも嫌だったし」
「結局俺が勝ったけど」
「まぁ、めでたいから良いとする」
「だよね、めでたいめでたい、ビールがうまい」
「聡って酒飲むっけ?」
「や、普段は飲まないよ。でも奢りの酒は別」
「うあー、雛子がまーくんと付き合わないせいで……」
「ケンちゃん」
「ん?」
「この賭け、最初は何賭けてたかおぼえてる?」
「ジュースとかじゃなかったっけ?」
「うまい棒」
「マジか、うまい棒!」
「中学生だったからね」
「はー、つらい」
「俺は奢りのビールがうまいです」
「次はお前の子で賭けるか」
「まだ小3だけど!?」
「え、もう小3?」
「だいたい彼女候補の女の子がいないし」
「まーくんとこのは?」
「来年小学校とかだよ、確か」
「へぇ、じゃあ来年の祭りは子供神輿できるかな?」
「あ、揃えばなんとかいけるかも」
「また準備しないとだなー」
「あの小さい神輿、使えるかな?」
「使えなかったら大変だぞ、また一からスタートだ」
「まーくんがいきなり祭りやるって言い出したときも大変だったよね」
「あんときは毎晩祭りのことしてたもんな」
「仕事ぼろぼろになったもん、寝不足で」
「俺も俺も」
「でも、俺、あの祭りわりと好き」
「実は俺も」
「なんだかんだ、みんな集まるしな」
「うん、みんなわりと好きなんだろうね」
「あと半年かー」
「夏が楽しみだね」

cf.夏の宝物

posted by Ag at 17:54| snips

2016年02月06日

ひとりごと、いろいろ

 今、お腹に赤ちゃんがいます。ということを言わないで何ヶ月もきたのは、別にネット上での私に必要ない情報だと思ったからではなくて、普通の学生時代の友達とかにもあまり言ってなくて、まだ言ってない人も結構多かったりするのです。本当のことを言うと、親戚にも友達にも産んでしまうまで誰にも言いたくなかったくらいだ。お酒が飲めなかったりつわりがひどかったりお腹が大きくなったりでバレてしまったから仕方なく報告した感じ。持病があって無事出産するということが普通より少しハードル高かったり、一年くらい前に流産してしまった(持病関係なく)りしたことが影響してて、なんとなく浮かれられないでここまで来たのだ。流産してみて、あー子供産むって難しいことなんかって初めて知ったよね。つわりとか陣痛とかそういう問題じゃなく、母子ともに無事というのは当たり前じゃなくてそうでないこともあるってことを考えもしなかったなって。最悪の場合、失敗=死だから目を向けないようにしてるというのはわかる。でも改めて今の妊娠をしてみて思うのは、ホントみんな失敗の想定をしないよなってこと。お腹に赤ちゃんがいるってだけでおめでとうだし、生まれたあとの話を平気でするし、楽しみだねぇーなんて言われてもはぁ……って感じで、もうホントなんか気持ち悪くなる。いや、待ち望んでくれるのはありがたいし、私だって無事出産を終えたい。トラブルとか考えたくもない。だからってなんでその可能性を見ないふりして話すかなぁって思っちゃうわけ。流産しちゃったときに思ったのは、ダメなこともあるって知っておきたかった!だった。妊娠初期の流産があんなにあるって知りもしなかったし、誰も教えてくれなかったから、どんなに慰められても励まされても響かないくらい衝撃が大きかったんだよね。結果が同じであっても、私は「このくらい流産があります、まだ安心はできません」と言われた方が気持ちの整理をつけやすかったと思うし納得もできたと思う。「おめでとう」「楽しみだねぇ」なんかより、そっちが欲しかった。

 もう、ホントこの件に関してはみんななんであんな馬鹿みたいに楽観視できるんだと、最近では怒りさえ覚える。出願したばっかりの受験生に「大学生になったら一人暮らしだねぇ」「サークルどうするの?」「大学楽しいよ」って言うくらいの狂い方ではないか。入試すら受けていないのに大学近くのアパート契約されるレベルのプレッシャー。ダメかもしれないし……とでも言おうものなら「そんなこと言うんじゃない」と怒られる。口に出さなければ不合格がないなら絶対そんなこと言わないけど、口に出そうが出すまいが不合格という結果があるのは事実で、だからその日までがんばって受験勉強するっつー話でしょうが!もう、センター試験の結果投げつけて家出するわ……そんなんだったら。

 そんな狂い方が当たり前のように行われるのが妊娠出産なんだよ……もうホントいや!ありがたいと思うけれども違和感のほうが大きい。ホントは名前考えるのも嫌なんだよ!つけられなかったらとか考えると怖いから!ええそりゃあ楽しみですよ!でも期待するのは怖いのですよ!って叫びたくなる。受験生みたいにとりあえず今できることを頑張って、めげそうなときには最高の未来を妄想してモチベーションあげたりなんかして、静かな部屋にひきこもりたい今日この頃である。

posted by Ag at 23:32| memo

2016年01月31日

1月が終わる…!

 年末感出したら早め更新になるかなぁとか言ってたのにやっぱり1ヶ月ほどあいてました。だめだなぁ。

 新しい年になって、まぁまぁいろんな変化があったりしてそこそこ忙しいようなのんびりしているような日々です。これからが変化の本番なので、のんびり妄想しているような時間は今しかないのかなぁ、とは思うんだけどのんびりが勝ってしまっています。実家にいて、隣で猫がのんびりしているせいだということにしておこう。

 猫の良いところは意思疎通ができないところかなと思う。何かを考えているのだけど何を考えているのかわからない。犬だと向こうの言いたいことが少しわかるから少し人っぽくてなんか嫌なんだよね。基本的に一人でいても平気な人間だから、こう、こっちの言いたいことも理解しないし何を考えているのかもわからない生き物となんとなく一緒にいるのは、寂しさだけが紛れて落ち着く。ちょうどいい隙間に収まってくれる感じ。猫にとって私もそんな存在であればいいなと思うのだけど、そうなっているかどうかが読み取れないのが少しだけさみしいのだけど。

posted by Ag at 15:06| memo

2015年12月30日

今年もありがとうございました。

 季節感あるブログ書いとけば、また季節が変わる頃になんか更新するだろうという安直な理由で年末感出してみたけど、これ夏ぐらいまでトップ記事だったらどうしよう。
 2015年もまぁ放置しましたね。それでも、サイトの見た目はナウい感じにできたのでよしとしよう。振り返ってみると今年あった大きな変化はお茶部を卒業したことかなぁ、とぼんやり思う。1期の途中で入部したので部誌1は参加できてないのだけれど(色がテーマの、相変わらずの鬼ボリューム鬼クオリティ部誌なのでぜひ!)、入部してから部誌には全部参加しようと思っていて、それがなかったらここ何年かお話なんて書いたかな作ったかな状態だったわけです。ご存知の通りこのザマです。来年からはお茶部がなくなるし、とりあえず何か無理のない目標を立てようかなって思ってるのが今。それでも書こうとするんだなって言うのは割と新鮮な発見。創作の優先順位は年々確実に落ちている。でもなんとなく繋がっていたいなって思うのは、これから先も変わらないんだろうなぁ。細く長く、というやつ。年越し蕎麦でも食べようか。食べないけど面倒くさいから。
 とりあえず、こんな感じで来年もゆるりとやっていきたいと思います。どうぞよろしく。
posted by Ag at 15:58| memo

2015年12月12日

真贋混淆の夜

 夏の宝物、の直前の話。大失敗合コン。
 夏の宝物はどうしようもない大人を書きたいなぁ、というイメージがあって、いろんな駄目な大人カップルを考
えていたのですが、その中に、25歳って言ってるけど23歳男子×27歳って言ってるけど29歳女子という組み合わせもあったのでその年齢設定だけ生かされているみたいなやつ。
 意図してはいないんだけれど、部誌のおまけの話は酒を飲んでばっかりだなぁ、っていうのが少し面白い。部誌ではお茶を飲み、おまけでは酒を飲む。打ち上げにはやっぱりアルコールがないとね、っていう感じ。とはいえ、夏の宝物はお茶部誌なのにお茶を誰も飲んでいないという話だし、その割に酒のみに行こうぜって言ってるので何とも微妙なんだけども。
 真贋混淆の夜、というタイトルは気に入ってます。
posted by Ag at 18:16| postscript

2015年10月23日

部誌4 その祭りの茶は


 少し前になるのですがツイッターでの部活動、創作クラスタお茶部、最後の部誌が出来ました。最後もやっぱりハイクオリティ。1期の途中から2期、3期と参加させてもらっていたけれど、これがなかったらお話書くことをやめてサイトも自然消滅を計ってたんじゃないかなぁとか本気で思います。参加してよかった。
 今回の部誌に書いた話はちょっと締切ギリギリまで書きあがらなかったり、タイトルもなんか締め切りに追われてやっつけでつけちゃったのであまり気にいってなかったりするのですが、それでも気に入っているところはその倍ぐらいはあって書いてよかったなぁと思います。
 他の人の作品や編集もものすごいクオリティーなので、ボリュームたっぷりを一気読みできるぐらい時間に余裕があるときに読んでみてください。

追記は感想文(雑)です。
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posted by Ag at 23:08| memo

2015年10月09日

入院のおわりに

 9月の終わりから入院している。入院中は時間が止まっているようで、退屈な同じ一日を機械みたいにぽつぽつと繰り返すだけで、おまけにあまりよく寝れなかったから昼間に眠くなってしまうことも多くてうとうとと薄い膜の1枚向こう側に意識があるような状態で過ごしていて、たぶん一生のうちの何分の1かを無駄遣いしているんだろうなぁとは思うのだけどなんだかんだで悪くはない。無駄遣いできる時間があることは幸運だし、あの時ああしていれば!みたいな後悔もないからなんだろうなって思う。もちろん健康だったら良かったのになと思わなくはないのだけれど、まぁ、持病があることについてはだいたいにおいて諦めがついているし。

 そもそも今しか考えなくて良いなら、昨日と同じ今日を重ねて生きていきたいと考えているから(もちろん将来働けなることとか世間と目とか考えるから、このままじゃダメだなって定期的に思ったりするのだけれど)、基本的に入院生活は性に合っている。退院したいなぁともちろん思うけど、その熱量は低いなぁと周りで入院してる人を見ると思う。退院後はいろいろやることがあって楽しみではあるけど、なんでも出来すぎて何をやろうか考えていくとだんだん憂鬱になってきて結局そのまま考えを放棄する。そうやって今日も昨日と同じようにぼんやりと時間を無駄遣いしている。退院が近いなんて、私が一番信じられない。

posted by Ag at 14:47| memo

2015年09月02日

生きることいろいろ

 夏に学生時代の友人と話す機会が何度かあって、学生気分に戻れる部分がある反面、あぁもうお互いいい大人なんだよなって痛感する部分もあって不思議な感じがした。グループで集まると学生気分に戻れる部分が大きいけど2人で会うといい大人なんだよなって痛感する部分が大きい気がする。近況報告とかお話の内容が多いとどうしても。旅とかイベントで集まるのは完全に学生気分になっちゃうんだけど。

 話すと、まぁ、いい年齢なんだよなぁと思う。仕事の話とか誰それが結婚したとか子育てが云々とか結婚について親からの圧力がやばいだとか。20代の頃は今カレシ居んの?の脇にあった、お弁当でいうなら漬物くらいのポジションだったテーマが気づいたら真ん中にあって、うわぁ大人になったなぁって思う。テーマの変化と同時に思うのがひとつひとつの言葉の重みが変わったなぁということ。就職活動をして初めて、働ける、ということ自体を勝ち取らないと働けもしないのだと気付いた。働けないという選択肢が世の中にあることに気付いた。そうして初めて仕事の話に重さが加わって、働き出すとどんどん実態を持って重くなっていった。そんな変化が結婚とか子育てとかのテーマにも起こってきてる。

 健康な子供を産むってすごいことなんだよな、と去年出産した友達が言っていた。いろんな人生のイベントに直面して、最近そろそろ気づいてきた。たくさんの人が当たり前にしてることは実は結構大変ということ。高校行ったら彼氏ができるわけじゃなくて、彼氏は作らないとできないし頑張らないと振り向いてくれない。大人になるとみんな働くんではなくて、働けない人もいる。高校生になったら彼氏ができて、大学卒業したら仕事があって、そこから何年かしたら素敵な人に出会って付き合って、いい年齢になったら結婚して子供産んで……って自然に当たり前にステップアップしてくわけじゃないんだよなぁ。階段を飛ばしたり迂回したりすることもあるし、登れなくて立ち止まることもあるんだよね。それを知ったことはたぶん大事なことなんだと思う。生きるって大変だよなぁ、って氷の溶けて薄くなったアイスティを飲みながら笑う、そんな夏だった。

posted by Ag at 07:40| memo

2015年08月06日

気付いたら八月。

 七夕云々言ってたのが1か月前か。こうやって気づいたらものすごく放置してるんだよな。まぁ、1カ月で放置してしまうのはせっかくの再開が台無しになるのでメモくらい更新してみようかなと思った次第。
 とはいえ、最近は絶賛体調不良中でそんなに元気はないのですよ。なんか、平均気温で見ると昔も今もそんなに変わらないとかいう噂もあるけどやっぱり最近やばいレベルで暑いと思う。35度とか昔は遠い話だったものね。最近当たり前にあるんだもの嫌になる。あとは百葉箱環境に近いことって大事だなって思うよ。実家に帰ると気温自体はそんなに涼しくないのだけれど、木陰とか土とか水たっぷりの田んぼとかそんなのが傍にあるだけでちょっと違うよね。都会は外に出ただけで死ねって言われてる気がする。こんな日はクーラーかけて高校野球見るに限ります。野球はおおきく振りかぶってで読んだ以上の知識はないけど、べつに好きなスポーツでもないけど。夏の風物詩として好きなイベントです。高校野球のテレビ中継。絶対甲子園行って見ようとかは思わないけど。
posted by Ag at 16:21| memo

2015年07月09日

ぽつぽつと

 復旧を進めています。紹介されているのを見たことがあるだけの映画なのだけど、365日のシンプルライフ、という映画を思い出したりした。最初に家のものを全部倉庫に預けて、1日1個だけ一番欲しいものを持って帰るというルールで暮らすという話らしい。とりあえず7月なのでたなばた二作は戻そう、から始まって、今回HBと夏の恋人を戻したのはまさにそんな感じ。
 長めの話をどう展示するか、というのを模索していてこの二作は短編の中でもまだ長めのやつなのでちょうどいいかな、って感じで復旧に至った。いろいろ考えた結果、基本は一ページに全部収めて、アンカーリンクをはる形式に。一ページに全部まとめると、こんなに章ごとで長さ違ったんだなぁっていうのが分かって割と面白い。具体的にはHBの遠足長すぎ。いや、長いなぁとは思ってたけど。こうなってくるとそろそろ新しいのも書きたいなぁ、と思うんだけど、多分新作はお茶部の部誌が今月か来月あたりに出るのでそのおまけになるかな。
 それからタイムラインで目についたフォロワさんのサイトを片っ端からリンクするというテロリストのようなこともやったので是非。
posted by Ag at 21:04| memo

2015年07月07日

コレクション

 コレクション。本当にどうでもいいことなのに、妙に細かく覚えている出来事がいくつかあって、俺はそれをそう呼んでいる。例えば5歳くらいの夏の蒸し暑い日曜日に父親とスーパーへ買い物に行って冷やし中華の材料を買ったこととか、小学校3年生のとき友人の逆上がりの特訓に付き合っていたときに見た夕焼けとか。数年に一度増えるそれらのことを、なぜか俺は何度も何度も繰り返して思い出す。思い出す、と言うよりは蘇るに近い。風や温度、においや感触まで覚えていて、どうしても忘れられないのだ。
 最新のコレクションは2年前の7月7日だ。その日は期末テストの3日目で、科目はたしか、世界史・家庭科・数学だった。数学の出来にまあまあ満足した俺は、五十音順に並んだときに後ろの席になる、2回ぐらいしか喋ったことがないおとなしめの女子に声をかけてみたのだ。気まぐれだったその行動はなぜかコレクションケースに並ぶこととなり、この2年で何度も思い出している。別に彼女のことを好きだとか、そういうのではないと思う。彼女とは、テストで前後の席になるたび二言三言テストについての話をするだけの関係で、クラスが離れてからは一度も話していない。その間、俺は恋をしたりフラれたり勉強したり部活にいそしんだりとそこそこ充実した高校生活を送っていて、クリスマスイブの別れ話とか登校中車に轢かれたこととか忘れられそうにない出来事だっていくつかあったはずなのに、高校生活で思い出すのは七夕のゆったりとした放課後のことばかりだ。
 彼女とまた七夕をしてみよう。そんなことを思ったのは多分、期末テストの最終日が七夕だったからだ。テストが終わったら彼女に会いに行こう。そう決めて、一昨日100均で笹と折り紙を買った。自転車に笹を縛り付け籠に折り紙で作った短冊を入れておけば、たった2日で塩ビの笹の葉はカラフルな短冊に彩られた。ふと目についたピンクの短冊にちょっとだけ勇気をもらう。今年は七夕がテスト最終日だから願いがかなうかどうかは微妙なところだけれど、英語のテストができますように、なんてまるであの日の俺たちみたいじゃないか。勇者が伝説の剣を抜くみたいに、自転車から笹を引っこ抜く。籠に残った短冊からピンクを2枚握りしめて、彼女の教室へ向かって走る。
「その笹、遠藤だったのか」
 すれ違うクラスメイトが笑う。彼女の教室まであと少し。1年半ぶりの会話の一言目はあの日と同じでいいだろうかなんて考えていたけれど、知らない教室の扉を開けて、帰り支度をしている彼女の姿を確認したら自然にあのセリフが口からこぼれた。
「笈木さん、笈木さん、今日は7月7日じゃないか」
 一瞬驚いた表情をした彼女はぼんやりと俺と笹を見つめて言った。
「あー七夕か」
 2年前と全く同じ返しに思わず笑いがこみあげてきた。カシャカシャと短冊同士のふれる音が妙に耳に残って、また一つコレクションが増える予感に胸が高鳴った。

cf.鯨と短冊
posted by Ag at 16:23| snips